仕事と母の介護に悩む独身の方へ|一人で抱え込まないための現実的な対処法

「このまま母の状態が悪くなったら、自分はどうすればいいんだろう」

仕事を終えて帰宅すると、母が転んだ形跡がある。でも明日も朝から出勤。兄弟はいない。誰に相談していいかも分からない。

そんな状況に追い込まれている独身の方は、決して少なくありません。

私は理学療法士として17年間、病院や高齢者福祉施設で多くのご家族と関わってきました。その中で「息子さん一人で介護をしている」ケースに何度も出会い、限界を超えてから相談に来る方を数多く見てきました。

この記事では、一人で親の介護を抱えている方が「今日からできること」を、制度の活用法と合わせて具体的にお伝えします。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の症状や治療については、必ず医師や専門の医療従事者にご相談ください。

「息子介護」はすでに珍しくない時代

データが示す現状

厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」によると、主な介護者の続柄として「子」が全体の大きな割合を占めています。その中でも男性が介護を担うケースは増加傾向にあり、いわゆる「息子介護」は数十万人規模にのぼると推計されています。

かつて「介護は嫁の仕事」と言われた時代がありましたが、核家族化・未婚率の上昇・共働きの増加により、その構図は大きく変わっています。

なぜ息子介護は過重になりやすいのか

息子が母を介護する場合、構造的に負担が重くなりやすいことが研究で指摘されています。

負担の種類具体的な状況
身体介助への抵抗排泄・入浴など身体に触れるケアへの心理的ハードル
相談先の不足男性は介護の悩みを周囲に打ち明けにくい傾向がある
仕事との両立フルタイム勤務と介護の両立で物理的に時間がない
心理的な変化戸惑い→受け入れ→追い込まれる状態を繰り返す

精神的に辛くなるのは、性格や意志の問題ではなく構造的に起こりやすいことです。まずはそのことを知っておくだけでも、自分を責めずに済むきっかけになります。

PT(理学療法士)として現場で見てきたこと

私が高齢者施設で働いていたとき、50代の息子さんが一人で80代の母親の通院付き添い・食事準備・入浴介助をすべて担っているケースがありました。

初めてお会いしたとき、息子さんはすでに慢性的な腰痛と不眠を抱えていました。「母がデイサービスに行っている間だけが自分の時間です」と話されていたのが印象に残っています。

このケースで私が感じたのは、「もっと早い段階で専門職につながっていれば、ここまで追い込まれなかったのではないか」ということです。

リハビリの現場では、ご本人(被介護者)の身体機能だけでなく、介護をする家族の状態も見ています。介護者の身体が限界に達してしまうと、結果的にご本人の生活も維持できなくなるからです。

こうした経験を何度も重ねる中で、「まだ大丈夫」の段階で情報を届けることの大切さを痛感するようになりました。

介護は「徐々に重くなる」ことを知っておく

要介護度と介護時間の関係

厚生労働省「国民生活基礎調査」では、介護にかかる時間は要介護度によって大きく異なることが示されています。

要介護度「必要なときだけ」の割合「ほぼ終日」の割合
要支援〜要介護2約47.9%低い
要介護5低い56.7%

つまり、要介護度が上がるにつれて「ほぼ終日」介護が必要になる割合が急増します。

「まだ軽い」段階でこそ動くべき理由

理学療法士の視点で言えば、以下のような身体機能の低下は連鎖的に起こります。

  1. 外出が減る → 歩く機会が減少
  2. 筋力が低下する → 転倒リスクが増加
  3. 転倒を恐れてさらに動かなくなる → 生活範囲が縮小
  4. 心身の機能がさらに低下する → 要介護度が上がる

これは「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と呼ばれ、動かないことで身体機能が低下する悪循環です。

私がリハビリで関わってきた方の中にも、「半年前まで買い物に行けていたのに、転倒をきっかけに外に出なくなり、3ヶ月で歩けなくなった」という方がいました。

「まだ大丈夫」と感じている今が、実は準備を始める最適なタイミングです。

介護で最も危険なのは「一人で抱えること」

責任感が強い人ほど、「自分がやらなければ」「人に頼るのは気が引ける」と考えがちです。

しかし、介護者が一人で負担を抱え続けると、以下のようなリスクが高まります。

  • 慢性的な疲労・睡眠不足
  • 腰痛や肩こりなどの身体症状
  • メンタルの不調(抑うつ・燃え尽き)
  • 仕事のパフォーマンス低下・離職
  • 介護者と被介護者の「共倒れ」

厚生労働省の「仕事と介護の両立支援」に関する調査でも、介護離職は年間約10万人に上り、離職後に経済的・精神的に追い込まれるケースが報告されています。

施設で勤務していた頃、介護者ご自身が体調を崩して入院し、被介護者のお母様が緊急でショートステイに入所されたケースもありました。あなたが倒れることは、親を守れなくなることでもあります。

最初に頼るべき場所|地域包括支援センター

介護に悩んだとき、最初に相談すべき場所は「地域包括支援センター」です。各市区町村に設置されており、以下のサポートを無料で受けられます。

  • 介護に関する相談・アドバイス
  • 要介護認定の申請サポート
  • 利用できるサービスの提案・調整
  • 虐待や権利擁護に関する相談

お住まいの地域の地域包括支援センターは、厚生労働省の「介護事業所・生活関連情報検索」から検索できます。

「まだ介護保険を使うほどではない」と思っている段階でも相談できます。むしろ、介護が本格化する前の相談が最も効果的です。要介護度が上がってからでは、施設やサービスの空きが限られる場合もあるからです。

相談時に伝えると良いこと

初めて相談に行くとき、何を話せばいいか分からないという方も多いと思います。以下のポイントを伝えると、スムーズに話が進みます。

  • 親の年齢と現在の身体状態(歩行、食事、入浴の状況)
  • 既往症や通院中の病院
  • 自分の仕事の状況(勤務時間、休みの取りやすさ)
  • 現在困っていること(具体的に)
  • 兄弟や親族の有無、協力の可否

活用できる介護サービスと制度

介護保険を申請し、要支援・要介護の認定を受けると、以下のようなサービスが1〜3割負担で利用できます。

サービス内容働く介護者にとってのメリット
デイサービス日中の通所介護・リハビリ日中の見守りが不要になり、仕事に集中できる
訪問介護ヘルパーによる入浴・食事・掃除の支援身体介助の心理的負担を軽減できる
訪問リハビリ理学療法士等が自宅でリハビリを実施通院の負担なく身体機能の維持・改善ができる
ショートステイ数日〜1週間程度の短期入所出張や自分の休息のための「レスパイト」に使える
福祉用具の貸与手すり・歩行器・車椅子などのレンタル転倒リスクを減らし、介助の負担を軽減

PTとしての経験から言えば、特に「デイサービス」と「訪問リハビリ」の組み合わせは、仕事をしながら介護をしている方にとって非常に有効です。日中はデイサービスに通ってもらい、訪問リハビリで自宅での動作能力を維持することで、介護度の悪化を遅らせることができます。

介護休業・介護休暇制度

会社員の方は、育児・介護休業法に基づく制度も活用できます。

  • 介護休業:対象家族1人につき通算93日まで取得可能(3回まで分割可)
  • 介護休暇:年5日(対象家族が2人以上なら年10日)、時間単位で取得可能
  • 勤務時間の短縮等:所定労働時間の短縮、フレックスタイム、時差出勤などの措置

これらは法律で定められた権利です。会社の人事部や総務部に相談してみてください。

一人でも「一人で介護しない」ための5つの行動

最後に、今日からできる具体的な行動をまとめます。

1. 地域包括支援センターに電話する

「まだ早いかも」と思っても、今の状況を専門職に伝えるだけで選択肢が見えてきます。電話1本で相談できます。

2. 親の「できること・できないこと」を書き出す

歩行、階段、トイレ、入浴、食事、服薬管理——現状を整理しておくと、相談時にもケアマネジャーとの打ち合わせにも役立ちます。

3. 会社の介護支援制度を確認する

介護休業・介護休暇・時短勤務など、自分が使える制度を人事部に確認しましょう。知らないだけで使える制度があるケースは非常に多いです。

4. 介護者向けの相談窓口を知っておく

介護をしている本人のための相談先もあります。

  • よりそいホットライン(0120-279-338):24時間対応の無料相談
  • 各自治体の介護者支援事業:家族介護者交流会、介護者カフェなど

5. 「完璧にやらなくていい」と自分に許可を出す

これは制度の話ではありませんが、17年間の現場経験を通じて最も伝えたいことです。

介護を一人で背負っている方は、無意識に「完璧な介護者」を目指してしまうことがあります。でも、専門職でも一人では限界があります。プロが複数人でチームを組んで対応していることを、一人で全部やろうとしなくていいのです。

まとめ|あなた自身を守ることが、親を守ること

  • 息子介護は構造的に負担が重くなりやすい——自分を責める必要はない
  • 「まだ大丈夫」の段階が、実は準備の最適なタイミング
  • 一人で抱え込むと、介護者・被介護者ともにリスクが高まる
  • 地域包括支援センターは「まだ介護保険を使っていない段階」でも相談できる
  • 介護保険サービス・介護休業制度を組み合わせることで、仕事との両立は可能

介護は一人で頑張るものではなく、制度と専門職の力を借りながら続けていくものです。

まずは地域包括支援センターへの電話から始めてみてください。その一歩が、あなたと親御さんの生活を守る大きな一歩になります。

参考資料

この記事は理学療法士としての17年間の臨床経験と、公的機関の公開資料に基づいて執筆しています。記載内容は2026年6月時点の情報です。制度の詳細や最新情報は、お住まいの自治体または地域包括支援センターにお問い合わせください。

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この記事を書いた人:エハラ トク|理学療法士(国家資格)/リハビリ専門職17年 → 詳しいプロフィール


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